1/2/22 ソクジン

「もうすぐ着陸します。」という案内放送があった。窓の外は、まだ薄明るいくらいで、雲しか見えなかった。

LAでの時間を思い返してみる。

海があったのはよかった。

そのほかに思い浮かぶものは、あまりなかった。

飛行機が大きく旋回したと思えば、たちまち都市が目に入って来た。

ソンジュに戻らされたのは、突然のことだった。父は電話でこう言った。

「帰って来なさい」

もちろん、理由はあるのだろう。父は理由もなく動く人間ではない。けれど、その理由は僕には教えてくれなかった。いや、多分、ソンジュに戻ること自体が、突然のことかもしれない。

全てはすでに決定されているし、自分は知らないこともあるのだ。

「そこに僕たちのお家があるの?」

前の席に乗っていた子供の声が聞こえた。

僕は窓の外に目をやった。

「いいや、私たちの家はその対岸だよ」

父親らしき人が答える。

家。

心の中で繰り返す。

家に戻るという感覚はない。

だからといって、LAが家である感覚もなかった。

LAとソンジュ

どちらも、僕の住所ではあるが、家ではなかった。

0コメント

  • 1000 / 1000