28/2/10 テヒョン

スーパーの前に、誰かがしゃがんで座っていた。初めに見たときは兄さんだと思った。

東の方には朝焼けが見えた。

少し目があって驚いたために、前に向き直ってそのまま歩きはじめた。

路地に身を隠して辺りを見回す。

誰だ?

ポケットに手を入れ、ハムトーストを入れたビニール袋に触れてみた。チェッ。母さんに隠れて稼ぐのに苦労したのに。

「あれ、テヒョンじゃないか。なんでそんなところにいるんだ。ドンと遊びに来たんじゃないのか?」

驚いて勢いよく飛び上がってしまった。

声の主は、スーパーのおじさんだった。

さっきの兄さんが頭を上げて、俺を見ていた。

チェッ!おじさんのせいで!

どうせばれたんだ。仕方なく兄さんの方に近寄った。

「兄さんは、誰なのですか?」

「僕?」兄さんは、何を言っているかわからない、という表情で俺を見た。

「どうした?ドンと遊ぼうよ!な?」

兄さんは、もう何も言わなかった。

その"兄さん"と話をした。

「僕の家は、父さんがお金をたくさん稼いだから、大きな家に引っ越して、子犬を飼っていたんだよ。」

「ドンが連れて行って一緒に住んでる。だから、兄さんは、そんな、連れ返そうなんてとんでもないこと、考えないでね。欲なんか出さないでね。」

兄さんは、うなづいて言った。「わかってるさ。」

「兄さんには、お金がないのですか?だから、子犬を育てられないのですか?」

俺の言葉に、兄さんは「お金?」と俺を見た。そして、首を振って答えた。「子犬は育てない。」

「パパにおねだりしなよ。ママが言ってたよ。パパはおねだりに弱いんだって。」

兄さんは、ただうなづいて、ドンを撫でた。

そうしながら「よかったね。」と、呟いた。

俺はもう一度、尋ねた。

「だから、兄さんは誰なのですか?名前は、なんでいうんですか?」

兄さんは振り返らずに答えた。

「僕?キム・ソクジンだよ。」

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